「呼吸論」

○一人で試みる必要性について

ものごとの学び方には、教えられて学ぶ以前にしておくこと、できたら、先にやっておくとよいことがあります。

教えられることは、すでに選択されています。大体は、「それが正しい」という形で入ってくるからです。

1.これまでやっていないことをする

2.何でもよしとしてやってみる

3.極端なことをやってみる

 こういうことは試みられません。

何事も、正誤の判断の前に、経験としてあってもよいことがたくさんあります。そして、それは学びのなかで、行き詰ったときに多くの手掛かりをくれます。

それに対し、教えられることは一つの形、体系になります。これまでにやっていないことをするわけです。そこから形になると、教えられていないことや禁じられていることは、しなくなります。それは無駄を省いているのです。しかし、実のところ、省いているなかで多くのことが落ちてしまうのです。

やってみて正されることよりも、やっていないことは、ずっと多いでしょう。個性やオリジナリティは、そこに潜んでいるものです。ですから、一人でやってみるとよいのです。

○型とイメージ

型は、選択され決まった動きのように思われています。それはローテーションとなり、フォームとなります。習慣となり、基本の型となるということです。

その型をもたらすものにも、自ずと形ができてきます。形は、辿っていると小さくなりがちです。少しでも大きくするつもりで接しましょう。形は同じでもイメージを大きくして試みるのです。

すると、これまでに使っていない脳、感覚、体を働かせることになります。そこで、これまでの習慣、くせがとれたり、もう一度原点に戻ったりするきっかけにもなります。

もたらすものが大切なのに形しかみえず、学ぶことが形をとることと誤解されがちです。型は、形を優先して、本人の自由を失わせることが多いのです。形から動きを感じられるようになると型をふまえて、ようやく自由を得られるのです。

○イチロー選手の型と段取り

イチロー選手は、彼の独特のフォームよりも、その前の段取りが注目されてきた選手かもしれません。彼独自の一連の段取りによって脱力し、心身も柔軟な構えとします。つまり、リラックス、落ち着き、事に備えるわけです。それは、「儀式」とさえいわれます。

本番前にトイレに行くなどというのも用足しだけが目的ではないのです。

となると、フォームより、そこまでの段取りにも型があり、その方が基礎ともいえましょう。

○声を出す

スポーツでよく「声を出せ」といわれます。これは、選手を鼓舞してチームを一体化するのとともに、大きな声を出せば、息が大きく出るのですから、深い呼吸となり落ち着く効果もあります。

しかし、他から強制されたり無理に自己に強いたりすると、力の出す方向を間違えかねません。そこでヴォイトレでは、ゆっくりと大きくしていく、深く広くしていくことをお勧めしています。

○怒に笑

一方が怒鳴ると、他方は怒鳴り返さない限り息が詰まってしまうものです。そこで大きな声で笑うことができたらよいのですが。まあ、シチュエーションとしては無理があるでしょう。

たとえば、深刻な状況では、上司が先に笑わないと部下が笑うことはないでしょう。ですから、深刻なときに笑える人は貴重なのです。その状況の外にいて達観することができたら、多くの問題は消えてしまうものです。

○完全な呼吸はない。

肺のなかの全ての息を吐くことはできません。それと同様、完全なリラックスや完全な呼吸法はありません。目標として目指してもよいのですが、できたとは思わないことです。常に目指している状態がもっともよいのです。

できたと思うと、そこから浅くなります。呼吸は限界まで深まったら、それ以上に深まりません。でも、もっとを目指していると、深いところに安定してくるのです。その最高値には個人差がありますから、それを目指すよりも最高値に最低値を近づけていくことです。☆つまり、安定させること、下振れを防ぐことが重要なのです。

一歩前へ、ポジティブに対するとき、人はけっこうな能力を出せます。しかし、到達したと思ったときには、もう守りに入り、事が難しくなるのです。息も止まり、浅くなるのです。

○コミュニケーションにおける呼吸

 呼吸は、間を表します。「あの人とは、気や呼吸が合わない」、そういうことはよくあります。それが、いわゆる間、間合いです。

何かを尋ねて何かが返答される、その内容よりも、その間のとり方でコミュニケーションは決まってきます。間合いとは、何とも微妙なものなのです。

そこには、タイミングの他、相性、性格、タイプなども含まれてきます。それが同じ人の呼吸を微妙に変えてしまうからです。

○説得と沈黙☆

説得するときには、説得される相手の身になることです。

コミュニケーションには、あえて先読みしない、というのも大切です。ずっと先読みされていると、息が詰まってくるものです。そこであえて進まず、待ちます。その一時を楽しみましょう。この間を決めるのが、呼吸なのです。

 「息をのむ」というのは、息を止め、じっとしている状態です。「はっ」と驚いたときなどにも使います。説得の前には沈黙が必要です。

○呼吸へのアプローチ

横隔膜は、首の前壁の筋肉の変化したもので、吸気筋です。

息を吐くのをコントロールする専門の筋肉はありません。

「人」という字を書いて飲む。これはメンタルで人に勝つとともに、空気を飲むことで呼吸に結びついているのです。

1分間の呼吸の回数は、大人は16回~20回(およそ、3秒で1回、1.5秒吐き、1.5秒吸う)、新生児で35~50回(大人の2~2.5倍)です。

 新生児は、換気量の少なさを回数で補います。大人でも緊張したりストレスを受けると呼吸が浅くなるので回数が増えます。

〇呼吸数を知る

自分の呼吸数を測ってみましょう。

1分間に吐く 回→ 秒で1回

1分間で吸う 回→ 秒で1回

長く吐いてみましょう

普通は7~20秒くらいです。

長く話す    秒~ 秒

歌って伸ばす  秒~ 秒

 吐くこと、呼気を長くするのには、新たにそれを支える筋力をつける必要があります。それは、呼吸に関わる筋肉で、骨盤底筋肉群まで含みます。

吐くことの反動(圧力差)で空気を入れ(吸う、吸気)ます。呼気と吸気の循環を大きく安定させていくのが呼吸法の目的です。そのことで、呼吸という発声のエネルギーを増大させ、しかも効率よく使えるようになるのです。

○呼吸の観察

みぞおちあたりの胸まわりで4~5㎝広がるのが横隔膜です。普段の呼吸で1.5~3㎝、腹式呼吸では5~7㎝も動きます。呼吸量は1㎝の動きで250~300㎖といわれています。

1.自分がどういう呼吸をしているかを知る

2.呼吸のくせをなくす

あるいは、くせなどにあまり囚われず、単に呼吸を大きくしてみると考えるとよいでしょう。

呼吸や呼吸法を、どれがよいかとかどういうのが正しいと決めつける必要はありません。最初は、意識することで精いっぱいです。少しずつアプローチしていきましょう。

トレーニング中、ため息やあくびが出ることがあります。これは換気の作用があります。出したくなったら妨げないでください。

○コンディショニングとグッドの声

 ヴォイトレで、声の調整をするというのは、整えるというのになるので、ヴォイスコンディショニングと言えばよいと思うのです。

ここで私が述べている調整の声とは、ベターな声のことです。

それが、今のしぜんでベストの声であるというなら、グッドの声でよいのです。元より、グッド、ベター、ベストをどう割り当てるかです。

私の区分では、普通によいのはグッドの声、これは心身がよければ出る声です。ベストの声は、心身をグレードアップして、つまり、鍛えた後にコントロールされて出る声としています。ベターの声は、グッドとベストの間、ベストの声への導入となります。つまり、現状グッド→ベター、将来はベター→ベストとみているのです。

○ヴォイトレの弛緩☆☆

 世の中、何においても「がんばらない」が、キーワードになってきたように思います。力をいれたがゆえの空回り、無理による無駄を嫌がり、恐れるようになってきたのでしょう。しかし、力が抜け楽になった分、原因のみえないところで表向きの混乱もなっているのです。

それは、当然のことです。トレーニングは意識して部分的に集中したのち、解放させるわけです。厳密には、ある条件のもとに負荷をかけて鍛え、変えて、一時的にアンバランスになるのを許容し、その後に、無意識に全体のバランスを可とするようにしていきます。ですから、無理、無駄を必要悪として、ある時期、許容しないと大きくは変わらないともいえるのです。

○肺と呼吸

内臓のなかで、肺は、呼吸筋、骨格筋の動きに委ねられています。心臓や胃腸、肝臓、腎臓のように、自らは動きません。しかし、その筋肉を扱うことで自らの意志でもコントロールできるのです。

呼吸が整うと

1.フィジカル面では、エネルギー代謝がうまくいき、うまく体を動かせます。疲労しにくくなり、体重も適正になります。

2.メンタル面で安定します。

ちなみに、2001年、日本呼吸器学会は、「肺年齢」という考えを提唱しました。年齢による肺活量の計算式もあるようですので、参考までに。

○ダイエットと横隔膜

 大きく息をすると、お腹の筋肉を動かすことになり、内臓をマッサージすることにもなります。腹圧が上がり腹がへこみ、スタイル改善、ダイエットにもなります。

お腹の前は腹直筋、横は外側から、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋、後ろは広背筋と脊柱起立筋です。

 胸鎖乳突筋といって、胸骨と鎖骨から乳様突起までつながる筋肉があります。これは、横隔膜と同じ神経系の支配下にあります。その横隔膜は、背骨回りの多裂筋と骨盤下の骨盤底筋肉群と連動します。

横隔膜が下がる(収縮)ということは

1.助間筋が収縮、肋間が開き胸部が広がる。

2.助間筋は、1~4内助間筋が前に拡がり、5~外助間筋のみ、横に拡がります。

その後、内助間筋が収縮し、腹横筋も収縮し、横隔膜が上がり戻るのです。

胸部回り、背骨回り、首回りの筋肉が固い人は多いです。すると、呼吸がスムーズにいきません。息切れの状態になっているのです。そこで、深呼吸することが、こりをほぐしデトックスにもなります。

○呼吸の3パターン

 呼吸について、基本を押さえておきましょう。次の3パターンがあります。

1.鼻から吸い、鼻から吐く

2.鼻から吸い、口から吐く

3.口から吸い、口から吐く

吐く―吸うことでは、鼻からか口からかで全4パターンあります。

1.鼻―鼻 通常

2.鼻―口 話すとき

3.口―口 非常時

4.口―鼻 このケースは、あまりないでしょう。

○呼吸トレーニングの効果

コリ、張り、冷え、むくみをとりましょう。

背のこり 助骨拳筋 背骨と肋骨つなぐ

肩こり  上後鋸筋 脊柱と肋骨つなぐ

斜角筋  首の横突起と肋骨つなぐ

胸骨のきわ 助下筋

喉の痛み 下後鋸筋 胸横筋

○異なる刺激

スポーツなどでは、技の習得にステップを踏むので、くせも同時についてきます。そして、とれないことにもなります。多くの場合は気づかない、とれない、よくないから、くせというのです。

そこで、直接、くせをとろうとするのでなく、あえて異なる環境刺激を与えるのです。他のスポーツや運動、筋トレをすることは、これにあたります。

あえて体を不安定にさせてバランスをとるようにしていき、慣れるとリラックス、脱力できるようにする、などという方法があります。片足で立つ、赤ちゃんのまねをする、コアトレをするなどは、そういう面が大きいのです。 

○意識をはずす

 筋肉に意識を向けます。意識を向けると、筋肉は収縮し固くなります。心身とも緊張するのです。そこで意識せずに、そこで扱えるようにしていくのが望ましいのです。しかし、トレーニングにハマる人には逆行していく人が少なくないのです。

息を吐くとお腹が固まります。吐き切るとガチガチになります。試してみる分にはよいのですが、このままでは、呼吸をコントロールできるようにはなりません。

何もしていなくても私たちの重力で負荷がかかり、それに対抗して支えているのです。そこで歪みが生じているのは、正したり整えたりしないとなりません。過緊張やくせをリセットして、それで補正できない分は強化します。最終的に、しなやかに、疲れにくくするのです。

それには、

1.無意識に使わないところを知る

2.意識して使えるようにする

3.無意識に使ってみる

この3つのくり返しです。

さらに、

1.使えているところをさらに使えるようにする

2.使えていないところを使えるようにする

の2通りをふまえていくいことです。

○赤ん坊からの進化☆☆

新生児の泣き声は、小さな体で大きく響くので発声の理想として取り上げられることがよくあります、しかし、声は喉声、その姿勢は必ずしもよいとはいえないものです。顎だし肩すくめのポーズですしね。もちろん、声域は狭く、発音も歌も不可能です。

しかし、泣くことで、呼吸筋(横隔膜、腹横筋)脊柱周りの筋肉が鍛えられていきます。つまり、完成形でなく、プロセスとしての参考例となるのです。

赤ちゃんの発達をみてみましょう。

1.首がすわる(3ヶ月)

2.寝返りをする(4~5ヶ月)

3.四つん這い(上半身)で体重を支える

4.ハイハイをする

5.つかまり立ちをする

6.立つ

7.つかまり歩きをする

8.歩く

 これらを再体験してみましょう。

首がすわるときに、あごを出さないようにしましょう。

寝返り、四つん這い、うつ伏せからハイハイへ、脊柱でバランスを意識します。

おすわりでは、軸と抗重力を感じます。

ずり這い(お尻歩き)

つかまり立ち

 それぞれのプロセスを経て、発声、呼吸ほか、人の基本的な動作で起きていることを知りましょう。

○声のためのワークショップ

仰向け、横向け、うつ伏せでの呼吸、そして発声へもっていきます。

1.胸は前 柔らかくする(胸部上部)

2.お腹は、横と後へ胴回りの広がりを肋骨に触り自覚する

3.肩、首回りをほぐしつつ脱力

4.背中で支える

吐くとお腹がへこむというよりは、横に拡がっていたお腹が戻る感じがよいでしょう。

○リラックスする

刺激して、ほぐし、そして強化し脱力します。

1.脱力する

2.揺らしたりさすったりして、緩める

3.押す、圧する

リンパを流すようにしてみましょう。

首の緊張をとるには、首の後ろに両手をあてて、縦にうなづいたり左右に動かします。

筋肉が骨についているところを、その筋肉の両端でほぐしましょう。

肩、小胸筋

腕の旋回

背骨 

イスに座って前屈してみましょう。

強く息を吐きます。息を吐きすぎることで内・外腹斜筋も働きます。

腹横筋を強化します。

体育座りから後傾して腹筋の意識をします。

座禅、瞑想をして落ち着けます。

調身、調息、調心の順に行いましょう。

○ラジオ体操の利用

高齢化社会になって、ラジオ体操が復活しているそうです。運動不足を補い、柔軟性を維持するには、とてもよいことです。

「胸を張って背中を反らしましょう」では、顎が上がり口から肺まで真っ直ぐになるので、呼吸はしやすくなりますが、肺や呼吸筋、横隔膜などは活かされにくくなります。手を上げると背中は、反ります。首や肩での呼吸では、腹式呼吸も胸部も使いにくいでしょう。

○効果の判断の難しさ

「息を吸ってお腹を膨らませるのが、腹式呼吸」というのは誤解しやすい教え方です。お腹を突き出したり出しひっこめたりするのは、呼吸とは別のトレーニングです。

だからよいとかよくないとは一概にいえません。呼吸そのものとつながっていないから、呼吸トレーニングでないようでも、結果としてそれを補助したり役立っていることもあるからです。

正しい、間違いに関する判断は、その場だけのことでなく、将来に対してプラスを求めるならば、簡単に肯定したり否定できません。あるトレーニングが直接的な効果でないだけで、あるいは一見、力んだりして邪魔していても、その動きが間接的に呼吸をフォローする効果となることはよくあります。☆

固めない、しぜんというのが基本です。とはいえ、より基本をしっかりと身につけるとするなら、トレーニングである以上、意識して固くなり緊張もして行うことになります。それをどこで修正するかということです。

固くもならず緊張もせずに、しぜんであれば変わりません。あるいは、とても長い時間がかかります。

○呼気と吸気

肺の弾力は「残気量」などから出せるそうです。ともかく、息は出したら入るのです。入れるためには出せることです。最初は、そのために無理、必要悪も承知でトレーニングするのです。

○機器を使った呼吸のトレーニング

ストローを使ったり、口をつぼめる、鼻先の片方をふさいで出す、などのトレーニングは、出口を狭くして抵抗を感じ、呼気を意識して、またそれに対応する力をつけようというねらいです。

吐くことに負荷をかける、呼吸筋を鍛えるというような器具なども売られています。

使い方や目的によって異なるし、人によって長所、短所もありますから、否定はしませんが、私はお勧めしていません。それで心地よいとか力がつくと感じている人は、よいと思います。

○過呼吸の注意

過呼吸は、吐きすぎてCO2不足で息苦しくなり、息を吸い過ぎるので、過換気症候群といわれます。具合が悪くなったり、倒れることもあるので、注意してください。

○発声トレーニングのメリット

呼吸、発声、共鳴には、うまい人と下手な人がいます。

生まれつき、あるいは、育っていくなかでうまくなった人とならない人がいるのです。うまくならない人は、うまくなるためにトレーニングをお勧めしている次第です。

すると、体幹が安定します。歩くこと、走ること、動くこと全般の運動技術や能力が向上します。習慣を改善していくのです。

発声でフィジカルパフォーマンス、メンタル、内臓機能などの改善が期待されます。健康になることも確かです。

○現代の呼吸事情

姿勢が悪いのは、呼吸によくありません。

赤ん坊、子どもの動きからヒントを得ましょう。とはいえ、子どもも小学校に入り、イスに座ることが多くなると、姿勢が乱れがちです。

昔は、たくさん歩いてたくさん運動して、しぜんと正されていたのです。しかし、その機会が減って声をつかわなくなったのです。それは、子どもから大人になるにつれ顕著になります。

○老いと呼吸

老いると、床から腰を上げるだけでも一運動になります。疲れがたまったときと同じでしょう。そこにはメンタル面も大きいです。

腹がすわるようにします。腹にすえかねたり腹を立ててはいけません。

正座や瞑想が流行しているのも、そのような背景があると思われます。

○チェックプログラムの立案

 次の項目をチェックしましょう。

表情 立ち方 歩き方 動き方 しぐさ 気分

1.レッスン時

2.レッスン前

3.レッスン後

4.普段

○胸とお腹

胸については、胸骨中心に大きく動くことが理想です。肋骨は、柔らかく、胸椎の可動域は大きくというように、です。

お腹は使うのですが、それは力を入れたり固めることではありません。

腹式呼吸、発声、ヴォイトレのトレーニングや鍛錬ということばに、あまり忍耐や我慢のイメージがつくのもよくありません。

力を圧縮するのでなく、解放するのです。ただし、拡散するのではなく、集中するのです。

○機能を高める

 声の機能を最大に使いたいなら、身体を機能的に使えるようにすることです。

できないことをできるようにするには、すぐに、部分的な目的での完成を目指さないことです。全体を底上げしていくことで結果、解決していくように考えることです。

高い声を出したいなら、高い声を出そうとせずに発声をよくする、整えることをします。つまり、より早く少し先に行くためにでなく、より深くより確実に、ずっと先に行くために、ためることを選べるかということです。

短期プログラムで筋肉をもりもりつけたからといって声が出るわけではないのです。

○体と声と呼吸のタイミング

スポーツでも体と呼吸のタイミングを合わせるのは大変なことです。陸上や水泳のスタート、相撲の立ち合いと、呼吸が合わないとやり直しますね。声は、その間にあるのでさらに複雑です。しかし、呼吸と声=体となれば、シンプルです。

呼吸と体を合わせるのに間のとり方を得ていきましょう。息は慌ててもため過ぎてもよくありません。でも、ためられるようにはしておきましょう。イメージ、感情にも左右されるので、心身の統一イメージが必要です。

○芯と共鳴

声=体とは、体についている声、芯のある声をもっているということで、軸、縦の線などと述べてきました。呼吸で声を生じ、共鳴させます。芯と共鳴の2つの条件がいるのに、多くの人は、共鳴だけでコントロールしようとして息詰まるのです。☆

○横隔膜のリラックス

横隔膜が緊張すると体幹がうまく使えず、しぜん体になりません。

たとえば、声を出して、竹刀面に打ち込むとします。そのときに、息は出ます。素早く吸い込んで、次に備えます。このとき肩で息をしません。肩が動くと乱れるからです。

本番前は、深呼吸でリラックスさせましょう。声を出しながら体操やエクササイズをします。動きのリズムに呼吸を合わせるのでなく、呼吸に合わせるのがよいでしょう。スローモーションでみてみましょう。機能的=美しいとなります。

息を吐いて肋骨が下がるとお腹が持ち上がりませんか。呼吸も横隔膜も、無意識から意識的に使えるのです。胸式呼吸時に首回り、胸、肩のあたりの筋肉が動くのは自立神経も乱れ、よくありません。

○筋力維持と腹圧

最近は、お腹が少し出ている体型が長生きするといわれ、反メタボの気運もあります。発声には、痩せているよりは少しぽっちゃりがよいといいます。

 理想は、お腹が固くない、背中も柔らかく、筋膜、インナーマッスルも柔らかい、筋肉、関節も柔らかいことです。

横隔膜の筋力の低下を防ぎましょう。使わないと劣化するので使うことです。これを他のところ、胸式呼吸などで補うと使えなくなりかねません。

メンタルとしての過緊張や、姿勢で胸の張り過ぎも悪い影響をもたらします。肺に空気があるのに吐けない、となります。

肩や首がこるのもメインの横隔膜呼吸ができていないために負担がかかるのです。

 

○胸の張りについて

横隔膜右下には肝臓があり、右サイドの横隔膜は少し高い位置にあります。右肺は三葉で大きいためです。左サイドはやや押し下げられています。左肺は二葉で上に心臓があるためです。

 胸を張ることで腰が反るなら、楽に続きません。ここで支えるのが腹圧です。上下、左右、前後で圧力がほどよくかかっていればよいのです。腹圧が前腹に偏ると脊柱が安定せずに腰が反るわけです。あごを引いて頭を持ち上げます。頭の上を操り人形の糸でぶら下げられていて、顎だけ引く感じがよいでしょう。首の筋肉では、顎が上がるので、胸椎の筋肉を使います。

無理に胸を張るのはよくありません。しぜんと張れているのがよいでしょう。つまり、腰を反らせてはよくない、ということです。肋骨が持ち上げられて浮くので、吐くときに下がらなくなります。固めてしまうわけです。

お腹は肋骨と骨盤の間にあたります。そこにボールを入れて支えるようなイメージをもちましょう。

○その他、肩、首などの注意

肩甲骨を脱力します。肩が下がることも大切です。

首に筋が出る人は、頭が前に出ています。すると、胸鎖乳突筋が緊張し、斜角筋も緊張したまま、肩上げ呼吸となります。(これは、特に女性に多いのですが、肩こりの一因です。きちんと空気が深く入らないのです)

どちらも呼吸を助けるときに働いても緊張をし続けなければよいのですが、この助けをメインとしてしまうと、悪影響が出ます。本来、メインとすべき横隔膜に頼らなくなってしまうからです。横隔膜が緊張していて、今度は吐けなくなります。

○フォロー体制づくり★

アメリカのスポーツ界では、メディカルスタッフとして、アスレチックトレーナー、フィジカルセラピスト(理学療法士)、ストレングス&コンディショニングトレーナーがついています。それに習い、研究所にも、そういう体制をつくりました。どうぞ、ご利用ください。