「ヴォイトレと音楽の練習」

○音楽的にする

 

歌唱で表現は、音の流れの中で決まってくるもの(曲)に対し、自分が何かをみつけ、そこでどう伝えたいかということ(心)でつくっていくものです。

歌が心身と一つになるために、声を自由自在に使いこなして歌として描くのです。ヴォイストレーニングとは、その自由度を声の力で拡げる得るためのものと思っています。

私は聴くときに、3分間すべてを貫く方向性に対し、いくつかの音の大きな動きとその関係をみます。それはリズム・グルーヴで支えられた上で、微妙にその人独自の呼吸でフェイクし、心地よい揺らぎを持つとともに、要所(ピークや語尾を中心)に、心に残るニュアンスをおいていくものでなくてはなりません。

 

〇どう歌うべきなのか

 

レッスンにおいては、「どう歌えばよいのですか」という問いは、成り立ちません。それを自分の歌において、問うことに対して、サジェストするのがレッスンです。

一瞬でも一フレーズでも、人の心に働きかけるものが出たところから、すべてがスタートするのです。あなたの歌が創造物(アート)であることを目指すのであれば・・・ですが。

詞を歌うのではなく、詞やメロディに表れた思いを伝えるのです。ことばだけでなく、メロディやリズムや音色、呼吸で、あなたが再構築するのです。ステージでは即興で、よりよく選び変えるくらいの気持ちでやることです。

 

○イメージング

 

歌とか声というのも、歌や声に何をのせて伝えるかということです。作詞でも作曲でも同じでしょう。だからといって作詞作曲の勉強をするのではなく、ヴォーカリストが、声の中に、心の音とか、ことばが歌い出したら、そうなるということです。世界の音楽まで含めて体に宿したら、そのときにふっと自分から出てくるメロディがそうなるのです。まず100曲でもつくれということです。

 

〇楽器と歌

 

ピアノでもヴァイオリンでも、一番根本の基本のところは変わらないのです。でも楽器の場合は、決められた土俵のうえでやりますから、そこに幼いときから長く触れている人の方が有利です。毎日10時間近くの練習は、楽器を自分の神経につなげるためです。でもヴォーカルの場合は違います。例外が許されるのです。いや、例外しか許されないのかもしれません☆。

 

○練習のメニュについて

 

基本的には、何事も自分が主体的に取り組み、自分で決めていくのがよいと思います。その練習内容を組み替えたり、よりよくするための基準を知るために、レッスンなどを使っていくということです。

多くの人が練習というのは、正しいやり方があるとか、いくつか決まったやり方であると思っているのですが、そんなことはないのです。その人の中で、歌のレベルに応じて練習の方法が開発されてこなくては本当には大して役立たないのです。

とはいえ、明らかに一人よがりのまったく間違った方向や無意味な“トレーニング”もないわけではありません。こういう場合は、第三者のアドバイスが必要です。

 

〇練習能力を高める

 

歌がすぐれ、表現力をもっているということは、それを支えるだけの自分の練習方法をもち、対応ができているということなのです。その能力を自分でつけていくことです。

ヴォイストレーニングのメニュも歌のテクニックも、それを参考に自分のものを作るためにあります。他人のものは本当には使えません。叩き台として使っていくことです。そのメニュのつくり方を学ぶのです。私は、ヴォイストレーニングの方法論イコールその人の歌そのものだと思っています。そうでないヴォイストレーニングなど、いずれは不要だからです。

 

○毎日できるトレーニングとは

 

若い人には、あまり他人の考えで左右されないでほしいと思います。表現を支える基盤とは、あなた自身の生き方、生きてきたことのパワーの総合力というようなところがあるのです。

特に歌は、二十歳でも、うまい人はうまいし、五十年、習っていても、へたな人はへたなのです。だからこそ実力派志向でいくなら、しっかりとしたトレーニングが求められるのです。呼吸や声のためによい習慣づけをすることが大切です。

私は、どこかで、トレーニングに徹底して集中できる二~四年間をとることを勧めています。それに前後して十年です。そうでないと、本当の意味で、感覚はともかく体は変わらないからです。

<>づくりの期間に五千時間、音楽を入れるということで、五千時間の、合計一万時間。

でも、日本のヴォーカルに関しては、それだけの時間は関係ないかもしれません。それまでに毎日行なうのは、ブレス(体)のトレーニングと、耳(感覚-音楽)のトレーニングです。

 

○声を出す時間に注意する

 

レーニングはともかく、それ以外で、喉を無駄に疲れさせないことです。

1.トレーニングの時間を短くする。

2.一日のトレーニングを分ける。

3.一つのトレーニングが終わったらその分、休みを入れる。

レーニングは、翌日、喉に疲れが残らない状態までがよいと判断してください。

「メリハリをつける」

○歌での感情表現は、ブレスで構成する

 

歌の音楽的構成での見せ方についてです。ここでは無駄な感情移入や雑な表現は整理しなくてはなりません。ドラマの起承転結のように、多くの歌は、4つに分けていくとわかりやすいでしょう。(4ブロック、4フレーズ×4)ピークに対しても、歌い手の感情を入れるのではなく、聴く方の感情に訴えるように展開し構成するのです。心をもっていきながらも、音楽の規則性(リピート、コード進行、グルーヴ)を最大限、利用します。最終的に、一曲を一本につなぎます。

といっても、1コーラス、あるいはAメロ、Bメロ、サビと、ブロックごとを一本に通すことができたら、かなりのレベルです。

テーマを表現し切るクライマックスは、その作品を決定していくピークにあたります。このピークに対し、どのようにフレーズを組み立てていくのかを考えることが、歌の構成、展開上ではとても大切です。

 

感情より、魂、心を

 

歌が感情表現を必要とするとは限りません。歌を音楽的に捉えるなら、バイオリニストやピアニスト以上の感情は、投入すべきでないと思います。声はただでさえ、感情的なものだからです。しかし、発声技術や音楽性に乏しいヴォーカリストでも感情の伝わる声や感情移入でもたせることができるのは確かです。私としては、感情というより、魂(ソウル)や心(ハート)、せめて気持ちと呼びたいのです。感情ということばは誤解しかねません。

 

○シャウトして歌うには

 

日常生活でできていないものは、日常生活で得ていくのがよいというのを知った上で、効率的に早く得る、より多くを得るためにトレーニングがあるのです。

外国人ヴォーカリストがシャウトするときに使っている声は、とても深く、喉に負担のない発声をしています。子音中心の言語ということも、高音には有利です。

それに対して、私たちの叫ぶ声は、喉にかかります。体や息が充分に使えないまま、無理に浅い声で出そうとしているためです。日本では役者のトレーニングで役者の声の条件を得ていく方が早いように思います。

 

日本人のシャウト

 

日本人のヴォーカルのシャウトは、上にあてて抜いたものか、生のまま、大声でがなったものが多く、前者はインパクト、音色・個性に欠けたクセ声か弱い響きの声、後者は生声、喉声で喉をつぶして、再現できなくなりがちです。まだミュージカルにみられる、クラシックの唱法をポピュラーにもっていったシャウトの方が、ましです。ただし、これは母音共鳴のシャウトなので、リスクも負担も大きいです。

あこがれから入ったまま、形だけをこなし、実のところにベースを置いていないことが、今の日本の歌の説得力のなさに見えてなりません。自分の声でのデッサンをしていくことです。

 

○一本調子を解決する

 

その曲を音楽たらしめているものがわかるまで、解釈しましょう。メロディ、ことばがひとつに溶けて、リズムの動きで流れてくるまで聞き込むのです。そことあなたの感覚をさらに融合するのです。次にどこで盛り上げて、どこで語りかけるかなどといった展開、構成を、徹底的に考えておくことです。強弱やテンポなども、あらかじめ決めて歌っては自分に合うように修正していきましょう。

これも、自分の声の音色、そして歌の音楽としての奏法を自ら見つけていく必要があります。自分の音と奏法を見つけるのが、アーティストなのです。

ヴォイストレーニングで、今まで意識していなかった普段の声もよくなることがすばらしいことだと思います。トレーニングとその成果には、タイムギャップがあるので、効を急がないことです。

 

○メリハリをつけるには

 

呼吸と声での表現が一つになるまでしっかりとつかみましょう。その表現力を決して損ねず、パワーアップして歌に持ち込みましょう。自然にメロディを処理していくこと、日本のミュージカルのように音程を歌うのはさけたいものです。

 

次の各要素に注意して、曲を聞いたり歌ったりしましょう。

1.テンポ、リズム、グルーヴ

2.発声、ことば

3.表情、表現、動作(フリ)

4.フレーズ(スピードの変化、音の強弱変化、メリハリ)

5.音色、ニュアンス

6.フレーズ間の動き、イメージ

 

絶対音感のメリット

 

私は幼いときに、ピアノを習っていたためと思いますが、絶対音感があります。弾いている音の高さが音名(固定のドレミ)で聞こえてくるので、原調(そのままの高さ)の楽譜が書けます。人の歌っている歌に、音を付けることができます。自分が歌うときに、導く音(ピアノなどのコード)がなくても歌い出せます。これらのことは少し便利なことであっても、大して必要なことではありません。仕事場には大体、楽器があるのですから。

便利なのは、カラオケスタジオや体育館やセミナー会場でアカペラでのチェックをするときくらいでしょう。これも、小さなキーボード一つあれば解決します。

 

絶対音感のデメリット

 

絶対音感のデメリットもあります。音の高さとは、その基音となる「ラ」(440Hz)435-444Hzあたりで、演奏者が決めているくらいあいまいであり、演奏上の一つの音での絶対的な高さというのはないということです。相対音感があれば、充分なのです。絶対音感があると、却って合わないと微妙に不快感が出ることもあります。また電子ピアノなどで、トランスポーションという機能で半音の移調した音を出すときに、混乱する人もいます。絶対音感があっても気にならない人、スケールとして弾ける人もいます。

 

絶対音感不要論

 

絶対音感教育を指導しているところもあります。最上葉月さんの書物「絶対音感」が大ヒットしたように、日本人はこういう基準に頼りたがる人が多いです。ビートたけしさんなどでさえ、「絶対音感がないから、すぐれたミュージシャンになれない」というような誤解をして、それに基づく発言をする文化人、芸術家が日本人に多いのです。絶対音感神話みたいなものをつくりあげています。

世界中に絶対音感のない一流のミュージシャンや作曲家、歌手はたくさんいます。

小さい頃に、音楽教育で身につく一つの能力にすぎず、それをつける努力の必要もないし、また絶対音感をもっているからといって、何ら誇るべき価値はありません。バイオリニストで論客でもある玉木宏樹氏などと同じく、私は先の著書の論には、否定的な立場です。

「リズムと音感」

○グルーヴ感をつける

 

確実に強拍に踏み込んでから、アフタービートにのって放すグルーヴの動きを捉えておきます。(音楽、曲、リピート、リズム、グルーヴ、音色中心の動きなどを意識します。)

1音の音のタッチに音色が出て、次に2つ目の音との関係で音楽の演奏が始まります。タッチとは、その人の表現のやり方といえます。これを一曲で描いていくのです。

楽譜を歌うのでなく、そこから、その歌の本質を取り出し、自らの呼吸で流れをつくり、音楽たらしめていく。その一端だけ経験し、体と感覚に、自らの声の動き、呼吸とともに入れていくのです。

 

感覚の切り替え

 

フレーズの中では、出だしから次の音へのつなぎは、そのあとの方向性を決める大きなポイントです。もちろん、そのフレーズのまえの息(ブレス)もこれに深く関わってきます。

海外では、音(息)の強さ、音色とリズム・グルーヴで打楽器的に声をたたみかけて(言語感覚そのままのリズム、子音中心)結果として、メロディや高低を処理します。この感覚の切り替えこそが、ポイントです。

 

いつも感じて動くこと

 

普段からノリのよい音楽を聴き、体でリズムに慣れるように心がけることです。たくさんのリズムパターンを体に叩き込んでおきましょう。ジャズ、フラメンコ、ラテン音楽をお勧めします。

3拍子の感覚を身につけるには、馬に乗ったときのタンタータン、ダンスのズン・チャッ・チャッのリズムが基本です。

ダンスミュージックを聴いて、体を実際に動かしてみましょう。

楽器演奏をたくさん聞くとよいでしょう。ヴォーカル教材より、楽器の教材がよいです。

 

○テンポをキープする

 

いくら複雑なメロディがついても、一定のテンポとリズムパターンを乱してはなりません。とはいえ、そこで感情を込め、部分的にメロディやリズムをフェイクしてもよいのです。そのズレこそが、個性であり、歌唱の本髄なのです。しかし、テンポの感覚を失って戻れないと、元も子もありません。

ですから、最初のテンポを曲の最後まで保つこと、つまり、一定のテンポ感を保つことを身につけましょう。ドラムやベース、リズムボックス、メトロノームで学ぶのもよいでしょう。

自分の歌を、リズムで読んでください。楽譜をみて、メトロノームにあわせ、音符を打楽器の楽譜と思って、叩いてください。足は、小節の頭を打つとよいでしょう。これを何度もやって、体に覚えさせてから歌いましょう。

 

○音程を正す前に

 

音程をはずす、リズムののりが悪いなどは、それをどう直すかでなく、そんなことが起こっていることがもっと大きな問題なのです。

本来、問題に上がってこないために、一流のアーティストがしてもいないトレーニングを、そこに設定することの意味のなさを考えて欲しいのです。それだけ音楽の世界に親しんでいない、よく聞いていない、ていねいに音を扱っていないことの表れです。クイズのように、正誤問題であたった、はずれたというのは、楽器の初心者ならともかく、芸事には、余分なことです。

積極的に声を出し、歌に慣れましょう。自分にあった歌で音域や音程の高低幅が少なく簡単なものにしましょう。簡単な音階の発声トレーニングをするとよいでしょう。発声がよくなれば自然と音程も狂わなくなることが多いものです。まず量、そして質にしていくのです。

 

音楽の流れで覚える

 

音程をトレーニングするなら、その課題ができるのでなく、そのうち無意識に歌の中でおかしな流れにならないように、結果が出てくるようにするためです。

つまり、より心地よく快感に相手に伝えようとし、その声の起こしていることを繊細に把握していく能力がつけば、正されていくと考えてください。音楽そのものを聞き、感じ、体や息を動かすことから学ぶことです。

 

読譜力、初見力について

 

楽譜は、音の高さ(ピッチ)と音の長さを表わします。瞬時に出ては消えていく時間軸の音楽を空間に目でわかるようにしたものです。そこに示された、論理、秩序、法則性(作曲家と音楽のルール)が、その音楽の形です。解釈や比較、他の人への伝達に便利です。ヴォイストレーニングをするなら、マスターしましょう。

「トレーニングの質を高める」

○体調の悪いときのトレーニン

 

疲れているときには、喉に負担をかけるハードなトレーニングはよくありません。喉の状態をよくするためにヴォイストレーニングをするのに留めます。時には喉を充分に休ませることが大切です。体と息のトレーニングを中心にしましょう。

こういうときは、トレーニングそのものよりも、それによって息、呼吸、体をよい状態にすることがプラスになると思いましょう。トレーニングは、明日のためにするのです。

 

○発声練習はいい声で

 

発声練習は、よい声にして、うまく歌えるようにすることでやるのですが、使い方を間違ってはいけません。そもそも発声練習は楽しいですか。

楽しくないとよくないとはいいませんが、テンションが落ちたり、他のことを考えて集中できないようなら、やっても悪い結果にしかなりません。

私は、歌やせりふのフレーズで声をみることが多いです。それは次のように考えるからです。

1.プロでも、発声練習には不慣れで、歌やせりふでの方が声もうまく使えていることが多い。

2.歌やせりふに、発声練習は不可欠ではない。発声練習をしないのに、プロになっているのがその証拠です。

3.発声練習が、歌よりも難しいように使われているなら、根本に戻り、シンプルにする必要がある。

 

フレーズでのトレーニン

 

たとえば、高いところを歌うのに「とわのこころに」というのを、「とわ」に比べて「こころ」がうまく声が出せていないときに、母音で「おおお」としたり「とわのとわのに」にしてみます。「こころ」というひっかかり(本人のネック)をやさしいメニュに置き換えて、少しずつ解決していくのです。

出せないことまでやって、悪いくせをつけるくらいなら、心地よく歌っている方がよほどよいのです。歌での調整でできるところは、短いフレーズのくり返し練習です。少しずつ音や長さ、動かし方を変えて行なえばよいのです。

歌よりもずっと難しい声域声量で発声練習をするのは、おかしなことです。自分のものがまとまってしまい、その器を破るときに限ります。

「歌いたいのであって、発声をしたいのではない」というのが、正常の感覚です。歌で発声練習をやり、うまくいかないところだけ重点的に補強トレーニングをするとよいのです。

 

○ことばを大切にする

 

音楽で伝えるのに、本来ことばは必要ありません。ことばがなくても、ピアノやトランペットは音で伝えることはできます。そういう言い方をしたらそうなるということですが、多くの歌手は、ことばを大切に伝えています。歌は、声と言葉があるから楽器に勝るところもあります。

発声で母音で歌うより、ことばをつけさせます。その実感(音色やニュアンス)の方が発声に優先すると思うからです。ただし、音楽上の成り立ち(表現力)をみるには、外国語にしたり、もっとも発声に難のないことばを選び、つながりをみます。

歌を自分のものにするには、自分のものを、その歌に叩き入れて動かすようにしていってください。流れの中で正されるように(楽譜に合わせるのでなく)心地よく、のりのよい線をイメージして声で奏でるのです。

 

○英語は発音より発声から

 

日本人の英語の発音は総じてよくなりました。しかし、発声の息とリズム(強弱)がよくないのです。口先で英語を器用に発音しているだけです。英語らしい雰囲気で聴かせているだけといってもよいでしょう。声は前に飛ばないし、強い息にのっていない。歌も声の芯や深い息がないので、私は、その一声で話したり、歌っているのが日本人とわかります。

英語は、強い息を発し、舌、歯、唇で生じさせる子音を中心とする言語です。日本語にないパワー、勢いといったものがそこからつきます。それが自然な深い声や音色につながるのです。その根本的な部分まで、耳と声で捉えている人はどれだけいるのでしょうか。

音楽面のみならず、自然な発声と呼吸を身につけた体があってはじめて、外国人のヴォーカリストと対等に渡り合える実力につながるのです。ですから、体からの深い息をなるべく深い声にするトレーニングを続けることです。

あまりに広汎に使われ、なまりも許されている英語では、日本語なまりであっても充分だと思います。その他の国のことばは、現地の人に聞かせるなら、それを母国語としている人と同じレベルの発音に使いこなすくらいに、使い込んでいかなくてはいけません。

「声を矯正するには」

○固くてツヤがない声をやわらかくする

 

声量のある人は、マイクの距離と、音響のヴォリュームで調節し、声の質を確認してみてください。マイクが遠いと、固く聞こえます。

 

声帯を合わせ、声の響きをコントロールする訓練として、ハミングは、よく用いられるようです。長時間続けても、喉を痛める危険が少ないので、調子の悪いときの調整にもよく使います。小さく、鼻のつけ根に響きがくるようにしてみてください。なめらかに、一音一音をつなげていくこと、口は最初は閉じて、次に少し開いて行なうとよいでしょう。ハミングは人によっては難しいので、できない人は無理にやらなくてもよいでしょう。ナ行、マ行の音を使いましょう。

 

<声を柔らかくする>次の音で練習しましょう。

・ンガンゲンギンゴング

・マメミモメモマモ

・ンマンメンミンモンム

ハミングのトレーニン

 

○低い声を出せるようにする

 

低い声というのは、高い声に比べて、その人の声帯から体型など、個人的な資質が、より関係してきます。ヴァイオリンでは、チェロの低く太い音は出せませんが、人間の場合、簡単に言い切れません。

低い声が出したくても、それほど必要がなかったり、人に不快を与えるのであれば、使わないことです。聞いている人にとっては、大して関係ないからです。

他の声域でやる方が伝えられるならば、そちらを選ぶべきと私は考えます。そういうことも総合的に判断しなくてはいけません。音響効果も使えます。あなたの生まれもっての楽器としての限界もあります。高い声にシフトして歌いすぎていると、低い声は出にくくなります。

大体の場合、高音域ばかりで練習していると、低音域で出にくくなり、低音域ばかりでは高音域は出にくくなります。それを知った上で高音域で無理して、声の状態を悪くする人が多いので、一時期、低音域でトレーニングするのはよい方法です。

 

鼻声を直す

 

鼻にかかりことばがはっきりしない。声を若々しく、鼻に響きすぎる声を落ち着いた声にしたい。すぐに鼻にかかってしまうなどの場合、鼻に抜けないように、一時、胸中心に意識してみてください。

 

○体からの声を出す

 

個々の音(発音)にとらわれず、体から一つのことばを一まとまりとして捉えて、発声をトレーニングすることです。役者のように、体からことばを一つにして言い切るのが基本ということを忘れないでください。

早口ことばのような滑舌練習も、それをふまえた上でなければ効果はありません。深く響きのある声を出すことの方に重点を置いてトレーニングを行ってください。

私は、発声の理にかなった発音を、発音そのものの正確さより優先しています。発音がいい加減であってよいのではなく、今の課題を片付けて、あとで一本化するのです。

レーニングは部分的な問題を集中して解決するのですから、全体のバランスがくずれるものです。元に戻し調整しなくてはなりません。

 

○ことばが聞こえにくい声を直す

 

明瞭な発音には、唇、あご、舌、喉(声帯)などが、スムーズに連動していなければなりません。発音より発声、発声より音の流れを優先することです。

その中でギリギリ、ことばをのせていくか、最初からことばで言い切って、それを音の流れでつないでいきましょう。

口を開けすぎ、動かしすぎて、唇やあごの運動にエネルギーを多く使うと、ことばにするときに喉、舌の運動にエネルギーや気持ちがまわりません。

歌においては、すべてのことばをはっきりと発音しようとしすぎると、口がパクパク、音程をとってメロディにつなぐだけで精一杯となります。そのため、ことばの持ち味や音色、イントネーション、リズム(グルーヴ)を生かせなくなることが多いようです。本来、音は点でなく線でとり、動かすのです。

日本語を音楽に使えるようにしていくには、イタリア語あたりの発声から始めるのもよいと思います。私は原則として、発声を発音に優先する立場をとっています。

 

キンキン声、金切り声を直す

 

自分の声を一方的に高めだと思い込んで喉をしめて出していることがほとんどの原因です。

息も浅く胸式に近い呼吸です。あごが上がっていませんか。まずは、ことばをしっかりと深く話すことから始めましょう。

低い声の「ハイ」で胸の響きを感じましょう。

 

喉声、かすれ声を直す

 

かすれている声、息もれする声は、高音に届きにくく、共鳴に欠けます。鼻に抜けて、かぜ気味の声のような人もいます。これは、息がうまく声にならないため、無理に喉に力を入れて押し出すからです。息を浅く短く吐き、声を出すのに不自然につくっているのです。裏声にも切り替えにくく、つまってきます。発音は不明瞭で、柔軟性に欠けます。

レーニングの初期にもよく見られることです。急にたくさんの声を長時間、使いすぎるからです。響きの焦点が合わず、声が広がってしまいます。声立てが雑で、ぶつけて力で出す人に多くみられます。あごや喉が固く、よくない状態での発声です。

 

小さく細い声を直す

 

蚊の泣くような、小さく細い声は、外見的には、あごや首、体格などが弱々しい人、または、内向的な性格からきていることも多いようです。これまで大きな声をあまり使わなかったのでしょう。その状態では、マイクの使い方でカバーするしかありませんが、根本的に変えたいものです。体力、集中力づくり、体の柔軟から始めましょう。スポーツやダンスなどに励みましょう。なるべく前方に声を放ってやることを意識しましょう。声を出す機会を多くとってください。

 

○低く太い声を直す

 

特に太い声でしっかりと響いている人は、有能です。一流のヴォーカリストは、高い声だけではなく、太い魅力的な音色をもちます。しっかりとその声を前に出すようにしてください。

声が低いとか声域がないから歌えないということはありません。どのフレーズでも伝わらないから歌えないということです。高い声の声域も目指してください。

 

〇レッスンに集中する

 

レッスン時間が、カウンセリングやレッスン生が話したり、トレーナーが語ったりすることだけになっていませんか。ことばのやりとりが少ないレッスンが求められるべきです。

私の所では、質問はメールで済ませ、レッスンの疑問は、メニュで答えるようにしています。それでも疑問が残るときは、何回聞いてもよいし、私か他のトレーナーにも聞くことがあります。

トレーナーの言語能力がないこともあるし、当然わからないこともあるでしょう。何でも質問してくる人に対して、あまりことばで説明しないほうがよいと考えるのです。

答えないのも、一つの答えです。答えてわかるようなことは答えなくともわかるし、それがわからない人には答えてもわからない世界があるのです。